「マスコット奇譚」(横溝正史)

オカルト、ラブ・ロマンス、ミステリ

「マスコット奇譚」(横溝正史)
(「血蝙蝠」)角川文庫

新進スター・早苗には
秘密があった。
一年前、何者かに殺害された
先輩・歌川の所持していた
縞瑪瑙のマスコットを
手に入れてから、
幸運が転がり込んできたのだ。
歌川もまたそうして
運を掴んでいたのだった。
そのマスコットは…。

横溝正史の戦前の
ノンシリーズの一篇です。
それ以前の耽美主義的な作風の
余韻を残しつつ、
本格推理小説としての萌芽の見られる、
横溝過渡期の一篇といえるでしょう。

本作品の味わいどころ①
これは宝石の呪いか!?

縞瑪瑙のマスコットには
「奇妙な魔神の顔が
彫りつけて」あるのです。
そのマスコットを
最初に所有していた里見淳子は、
何の気なしにそれを
歌川亜由子に譲って以来落ち目となり、
代わって歌川が
脚光を浴びるようになったのです。
そしてマスコットを
楽屋に置き忘れた晩に歌川が殺害され、
それを自宅まで届けた早苗が
死体を発見します。
彼女はそのまま
マスコットを所持し続け、
ようやくスターの座を
手にしたのでした。
何やら「宝石の呪い」のような
オカルトチックな筋書きです。

本作品の味わいどころ②
彼女はどちらを選ぶ?

売れっ子になった早苗には、
資産家の婿養子・内海が
パトロンとして名乗りを上げます。
一年前まで極貧の生活を体験した
早苗にとって、内海の登場も
マスコットのもたらした
「幸運」の一つに思えたのです。
しかし彼女には貧乏時代からの友人の
須山という男性がいたのです。
彼も彼女に気がある様子です。
さて、早苗はどちらを選ぶのか?
ラブ・ロマンス的展開なのです

本作品の味わいどころ③
マスコットの秘密とは?

ある事故がきっかけで、
早苗はマスコットの秘密を
知ることになります。
そこには何が隠されていたのか?
それが結果として一年前の歌川殺害の
真相を暴くことにつながるのです。
ミステリとして堂々と完結します。

オカルト的な展開から始まり、
ラブ・ロマンスを経て、
ミステリとして完結する、
技ありの作品といえるでしょう。
単なる幸運(それも先輩・歌川の
死によって)で出世したという設定、
それによって高慢になっている性格、
殺人の容疑者を追い詰めたかと思えば
放置する主人公・早苗の人物像には
いささか感情移入できない
部分はあるものの、
それを補ってあまりある面白さです。
横溝の初期短篇の面白さを
堪能しましょう。

※本書「血蝙蝠」は、長らく
 絶版状態が続いていましたが、
 「探偵・由利麟太郎」の
 テレビドラマ化により
 復刊されました。

(2020.7.12)

Josch13によるPixabayからの画像

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